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2011年8月31日、東京高等裁判所は、筑波大学プラズマ研究センター長教授が、筑波大学他を相手取って起こしていた「解雇無効・損害賠償」の訴訟について判決を行い、原告の控訴をすべて棄却しました。水戸地裁土浦支部の判決を支持した内容でした。
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 本事件は、長教授が2006年8月にフィジカルレビューレター誌に発表した論文に「データ改ざん」があったとして、2008年8月筑波大学が長教授を解雇したことについて争われたものですが、その背景には日本における「学問研究の自由」「大学・学会の閉鎖的体質」があり、今後の我が国の科学の発展、という意味からも重要な意義を有するものとして注目を集めました。

テレビ放映も何度もされました。[ TBS Televising ]のページをご参照ください。

 

裁判では、長教授の論文に「データの改ざん」があるとする筑波大学の主張は科学的に全く根拠のないものであること、学問研究の論争は学問研究の場で行われるべきこと、懲戒解雇手続きも無効であること等を主張してきました。

世界の多くの科学者は長教授の主張を支持し、筑波大学の処分が不当であるととともに、このような処分を行った筑波大学に対して国際的な調査を求めるなどの立場を明らかにしました。

国内の実験物理学者も長教授が行ったデータ解析は正当なものであることを証明しています。

原審では、大学の提出した非科学的な証拠のみを頼りとして、処分の形式的な有効性のみをもって請求を棄却しました。

控訴審はそれを追認するだけの判決にとどまりました。

この判決はまさに、450年前にガリレオ-ガリレイが、地動説を唱えることで迫害を受けた宗教裁判を彷彿させる、と言えないでしょうか。限りない憤りと司法に対する不信感を感じざるを得ません。

裁判で明らかになった筑波大学の言う『改ざん』の実態とは
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甲212号証 乙214号に対するコメント
日本女子大学理学部数物科学科 宮原教授
kou212_Prof Miyahara (1).pdf
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甲第257号証 意見書補遺(矢花氏の陳述書に対する反論)
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 前澤教授
kou257_Prof Maezawa (1).pdf
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裁判で明らかになった筑波大学の言う 『改ざん』の実態とは

 

 

裁判で明らかになった

筑波大学の言う『改ざん』の実態とは

 

(1)Physical Review Letters」誌の図の解析を学部4年生が できるのか?

 

裁判では、筑波大学側は、研究歴が25年を超える長照二教授が自身で解析したPhysical Review Letters (PRL論文) の図について、「学部4年生などが解析し図を作成した」との驚くべき主張を展開しました。極めて高度な数理統計を駆使する、PRL論文用の解析・図の作成について、筑波大学が“研究者の卵”ともまだ呼べない研究をはじめて半年程度の「大学院に上がる前の学部の4年生の学生が行った」と主張せざるを得なかったのはなぜなのでしょう?

 

大学側は調査の過程で、論文を作成した長氏とその補佐を勤めた3人の講師には一切通告することなく、長氏指導下の学生からの事情聴取をもとに「改ざん」の有無の調査を進めました。

学生達は大学側から命じられるがままに、長氏や講師との間で交わされたメールやメールに添付されていた図を大学に提出しました。大学側は裁判でこのメールやメールに添付されていた図だけを元に、長氏の論文の「改ざん」を立証せざるを得ませんでした。大学側提出の証拠には、長氏のパソコン上に残るデータや図は一切含まれていません。しかし、長氏は当然ながら自ら解析を行い、自ら図を作成し論文を投稿したのです。

ところが、大学側はこの長氏自身のパソコンに残る図・データを入手しえなかったことから、学生らから提供されたメール・データだけをもとに「改ざんがあった」と主張するために、「PRL論文の図を学部4年生が作成した」という、研究者の世界を知る人であれば、絶対に有り得ない、非常識極まりない、苦し紛れの主張をするにいたったのです。

 

プラズマ研究センターの実験装置にはメンテナンス期間が必要です。1年のうち、実験にあてられる時間はわずかです。この実験期間で得られた同じ実験データを元に、学生は卒業論文や博士論文を、講師は講演や研究発表を、それぞれの習熟度にあわせて行います。

筑波大学は長氏が作成した図と学生が見よう見まねで作成した図の「外形的な類似点」だけを取り上げ、図の元となっているデータ点の数値の違いをあえて無視し、学部4年生が卒業論文のために解析し作成した図が、そのままPRL論文の図になったなどという極めて荒唐無稽な主張を展開しているのです。

 

 

(2) 科学・数理統計の常識を意図的に無視する大学に対する憤りの声

 

この大学側の意見を代表するY教授の、とにかく裁判に勝つために、科学や数理統計の常識を無視してまで奇妙な「作文」に終始する姿勢には、国内外の専門家から厳しい非難の声が繰り返し上がっています。

Y教授はプラズマの専門家ではありません。非専門家でありながらY教授は、PRL論文Fig.1(a)に用いられた可動型ELA計測器の生データについて次のように述べました。

 

●筑波大学Y教授陳述書より

統計学の検定の立場からすれば、可動ELA の生データは、右側の場合よりもはるかにあてはまりが悪い、まさにノイズだらけのデータであり、帰曲線など考えること自体が意味のないデータなのです。」 (乙141、102頁)

 

ここで述べられている、回帰曲線を考えるときの「標準偏差と相関係数」の問題は、極めて初歩的な概念です。これを無理矢理、自らの主張に都合のいいように解釈し「意味のないデータ」と意図的に作文していることについて、国内の専門家は次のように批判しました。

 

●宮原日本女子大学教授・高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授意見書より

「一般に裁判官のほとんどが文系の出身で理数系でないことに便乗して、標準偏差とか相関係数などの初等的な概念だけで意図的に狭くてわかりやすい論理を展開しているとしたら、あまりいいやり方とはいえないと思います。アメリカなどでは「裁判は一種のゲームだから、勝てばそれでいい。」という考え方も一部にあるとは聞いていますが、今回のように純粋に科学技術的検討が必要な場合は、たとえ難解であっても学問の論理に忠実に従うことが重要かと思います。」(甲176の2、5頁より)

「相関係数が低ければ信頼度は低いと言う旨の初歩的誤解がありましたので、私はそれに反論しました。これはあまりにも初歩的な誤解なので、筑波大学の他の研究者の理解がそれと同じレベルであるとはとても想像できません。」 (甲212、乙214号証に対するコメント、2頁 より)

 

さらに2名の科学者(宮原教授・前澤教授)が、PRL論文のFig.1(a)の電位値について元の生データを詳細に、2種類の異なる手法を用いて再解析されました。その結果は、長氏がPRL論文に掲載した解析結果と同じという結論になりました

ところが筑波大学Y教授は同じ生データをもとに以下のような解析を行い、「長氏の使った“生データは解析に値しない、意味の無いデータ”」と主張しています。

この3者の解析結果を比較します。どちらの解析結果が正しいのかは、科学者でなくとも数理統計の知識がある人なら一目でお分かりになるでしょう。

 

 まずは宮原教授・前澤教授の解析結果です。

 

  宮原教授 解析結果 参照図1

  前澤教授 解析結果 参照図2

  

 

 宮原教授・前澤教授の解析結果を示すグラフには、もっとも小さい値(極小値)が一箇所しか存在せず、それぞれ0.125 kVの付近が最小値であることが見てとれます。これは、長氏がPRL論文に発表した解析結果である「0.125kV(誤差はプラスマイナス 0.010 kV。すなわち、0.1150.135 kV)と非常に「精度よく」一致していることが分かります。【「PRL論文 Figure 1の解法」〔PoP論文Figure 6(a)で詳述〕の欄をご参照下さい。】

 

  これに対して、筑波大学Y教授が同じ生データを元に解析した結果を以下に示します。Y教授はこの解析結果をもとに「極小値が複数あらわれるような生データであり、この生データは解析に値しない」と結論付けています。

 

    Y教授 解析結果 参照図3

 

 

 確かにY教授の解析では、極小値が少なくとも3箇所に存在するようにみてとれます。このY教授の明確な誤りのある解析結果に対しては、宮原・前澤教授からさらに厳しい批判がなされました。

 

       前澤教授「意見書補遺」

「パラメーターを多少振っても、残差2乗和があまり変化しない、というのが最小2乗法の数学的な原理なのですが。結果がガタガタしたら、それは適用方法に何か間違いがあったと考えるのが研究者ではないでしょうか?」(甲257、4頁)

 

●宮原教授「Yの陳述に対するコメント」

「電位というパラメータを連続的に変えていったとき、最小二乗残差も連続的に滑らかに変化せねばならないことは、数学における関数論として自明なことです。」

「この計算は学生などに丸投げせずに、本当にご自身でやられたのでしょうか。ご自身で計算されたとしたら、有限データに対する多変数の極値問題を解いた経験をY氏がお持ちでないということであり、ほとんど使い物にならない計算結果と言わざるを得ません。」                               (甲191、1頁)

 

 

 

筑波大学は、高裁段階で、長氏を支持する国内外の著名な科学者達に対して、「“自己の利益”のために長氏を擁護しているにすぎない」という主張を行っています。

さらに、ロシアを代表する物理学者で、長氏のPRL論文の主要な共著者であるパスツコフ博士については、長氏の「論文改ざんの共犯者である」などと大学側は揶揄し、国際問題になりうる異様な発言を、大学側は繰り返しています。

 

長氏はすでに懲戒解雇された無力な個人であり、学会に身をおく研究者としては、今後は筑波大学との関係性を重んじその不利益につながる発言を控える方がはるかに「自己の利益・賢明な選択」につながるのです。それにも関わらず、研究者達は大学に対して現在も抗議を続けています。

 

意見書を執筆した高名な5名の国内の科学者たちは、大学側のただ裁判に勝つためだけに科学や数理統計の常識を敢えて無視するその姿勢に強く憤り、学問的真実と学術研究の自由を守るために、東京高裁に対して意見書を作成されました。

 

長谷川晃大阪大学名誉教授の意見書

「このような世界各国の著名な学者が多数署名する(Physics Todayなどの)レターは極めて異例のことであり、大学はこのレターの内容、及び、これが出版された事実を深刻に受け止める必要がある。

当大学の非専門分野の学者が論文内容の正当な評価が出来るとは考えられず、処分の裏には何らかの政治的意図の存在があるとしか考えられない。」 甲182の2、4頁)

  

宮本健郎東京大学名誉教授の意見書

「本件PRL 論文」のFig.1a に対する批判は、「本件PoP 論文」の反論により、その論拠を失っていると思われる。このような状況下では「筑波大学研究公正委員会」が「本件PRL 論文」に不適切なデータ解析があるため、その著者等に名前の削除を求めた主張は、学術的には認められていないと結論せざるを得ない。 (甲179の2、5頁)

 

巽友正京都工芸繊維大学元学長・京都大学名誉教授意見書

「同じ生データの異なった「解析時刻帯」のものについて再解析したところ、数% 以内の解析誤差で再現できたということは、科学的にも、また両者の主張の相違を解決する上にも、意義ある試みであると思われます。また、その結果が満足すべきものであることは、本実験の「生データ」とその「解析措置」の双方の信頼性を事実として示すものであり、まして「改ざん」などの中傷を許さないものと判断します。」 (甲181の2、2頁)

 

●前澤秀樹高エネルギー加速器研究機構教授意見書

科学的検討を充分に経ることなく行われた改竄という誤った認定を、同じ研究者として看過し得ないものであると考えたことはもちろん、こうした前例が全国の研究の現場にもたらす重大な影響を危惧したからに他なりません。

第一審決定が確定して広く判例として定着することになれば、それは科学研究の現場に重大な混乱を引き起こすことになります。多くの実験研究の現場で長い期間を通じて培われ、日常当然のように採られている科学方法論の根本が、全面的に否定されてしまうことになるからです。 (甲177の2、17頁)

 

●宮原恒昱日本女子大学教授意見書

「大学の名誉のために「改ざん」とか「捏造」という論理を組み立てる必要が生じて、純粋に学術的な態度を取れなくなった、万が一このような動機があるとしたら、筑波大側には正義も大義もまったくないことになってしまうので、この東京教育大学から始まる長い伝統と高い実績のある大学が、できればそうあっては欲しくないと願うのは、私だけではないと思う次第です。」(甲176の2、18頁)

 

「私は長照二氏と面識はありませんが、1人の研究者が、誤った未熟な学術的検討で研究者生命を断たれようとしていることに対しては、大きな危機感を抱かざるを得ません。」(甲212、3頁)

 

以上は、東京高裁に出された、斯界でも有名な専門家の、意見書の一部です。

 

 

 

 

(3)    裁判に勝つためだけの「虚偽」の主張

 

さらに筑波大学は裁判で明らかな「虚偽」を主張するにいたりました。

国内の専門家だけでなく、世界の著名な研究者が長氏を支持し続けていることについて、大学は「海外の研究者は日本語で書かれたHP掲載の調査結果を理解できないからだ」と主張しました。

ところが、裁判が始まる前に、筑波大学は長氏の処分に対する世界の科学者達からの抗議を受け、M副学長(当時)自らが、調査結果の英訳版が掲載されたHPアドレスを彼らに案内していたのです。(甲95の1・2)

事実、米国プラズマ物理学会前会長でプリンストン大学のフィッシュ教授は、次のように証言しています。

 

あらゆる関係書類を見ましたが、どこにも、本当にどこにも、「改ざん」の痕跡など見つかりませんでした。」

(甲175の2、9頁)

 

こうした事実を隠し、法廷で虚偽を述べてまで、なんとか「改ざん」があったかのように装う大学側の主張は、「研究不正行為」の有無を法廷の場で明らかにすることから著しく乖離した不誠実きわまりないものであり、学問の府たることを自ら放棄したといっても過言ではありません。

 

 元の生データが今も存在し続け、その生データからPRL論文の図が作成できるかどうかは第三者による検証が可能です。実際に意見書を執筆された2名の科学者は「ノイズだらけのデータであり、回帰曲線など考えること自体が意味のないデータ」と筑波大学が称する生データを用いて、自ら詳細に再解析し、長氏と同じ結果を導き出したうえで「改ざんは無かった」という結論を出されました 

PRL論文に用いた「一部の解析時刻情報」は遺憾にも元学生らによってバックアップと共に消去されました。しかしながら、生データの時間変化(バラツキ)は小さいため、どの時刻のデータでも数%程度の誤差範囲内で元の生データから再解析・再現ができるのです。このことによって、本論文の実験データとその解析が科学的に正しいことを、専門家らには十分に理解できるものです。

 

  このような筑波大学による「改ざん」なる認定が前例となることを許せば、日本の科学界を萎縮させ、後世まで延々と悪影響を及ぼし続けることは、もはや明らかなことであり、今後久しく世界からも、異様な日本の大学のありかたとの評価を免れ得ないものです。

 

皆様は、以上の解析比較や多数の国内外の研究者の意見書などを、どう御覧になりますでしょうか?

 

  

 

参照図1 宮原教授 解析結果
参照図1 宮原教授 解析結果
参照図2 前澤教授 解析結果
参照図2 前澤教授 解析結果
参照図3 Y教授 解析結果
参照図3 Y教授 解析結果